2019年4月19日~21日に開催された第122回日本小児科学会学術集会のレポート記事です。
第122回日本小児科学会学術集会(会頭・谷内江昭宏金沢大学医薬保健研究域医学系小児科特任教授)が4月19~21日、金沢市内で開かれ、20日には特別企画6「AI(人工知能)と医療~AIはこれからの医療をどう変えるか?~」があった。東京大学医学部附属病院放射線科の渡谷岳行講師は「AIによる放射線画像診断支援:日本医学放射線学会の取り組み」をテーマに話し、「日本医学放射線学会による画像診断ナショナルデータベースは今年度中に1億枚を収集できる見通しだ」と話した。(MMJ編集長・吉川学)
渡谷講師はまず、AIの学習には、教師あり学習と教師なし学習があるとし、医用画像領域ではおおむね教師あり学習になると説明。AIが画像をみて、疾患を分類し、病変部位を同定し、異常かどうかを判定するためには、数千~数万の画像データと教師データが必要だとし、非常に手間のかかる作業だと述べた。
一方、放射線科領域の診断用画像はフイルムレス化の際に国際規格による標準化が進み、すべての画像がDICOM型式でPACSサーバーに格納されているため、AIの学習に必要な大量のデータを比較的均質に集めやすい基盤が存在し、恵まれていると説明した。しかし、既存の技術をすぐに転用できる点も多いため、非医用画像など他の分野から攻め込まれやすいと分析した。
日本医学放射線学会の取り組みについては、直属下部組織として日本医用画像人工知能研究会を発足させ、裾野拡大のためハンズオンセミナーを開催していると紹介。さらに、画像診断ナショナルデータベース(J-MID)をつくり、AI等のソフトウェアの具体的な開発、開発が容易な環境の構築、データベースを持続・発展できるコスト構造の構築という方向性について説明し、現在は第2期中盤で、2021年4月での完成という工程を示した。全国の連携機関からJ-MIDセンターへは、2019年4月9日までに、画像2900万6124枚、レポート19万5844件が送信され、今年度中に1億枚に達する見通しを明らかにした。さらに、教師データの規格標準化の取り組みとして、施設やテーマでばらばらだったフォーマットを統一するため、J-MID標準の教師データフォーマットを策定したと話した。
また、東京大学と国立情報学研究所の「頭部CTによるくも膜下出血(SAH)の検出」という共同研究プロジェクトを紹介。第1段階として、SAH30例、1230枚と非SAH33例、903枚を使い学習させた結果、出血の有無についてはかなり微細なものまでほぼ正しく判定できたと述べた。今後はJ-MIDの利用で、全国規模に拡大していくとした。さらに、非造影CTから造影CT像を推定するという順天堂大などの研究も紹介。また、講演のスライドの画像のうちいくつかは、本物ではなくAIが合成した「絵」であることも明かした。
人工知能は医師の仕事を奪うのかについては、トロント大学のGeoffrey Hinton教授の「放射線科はAIによる淘汰の対象」という2016年の言葉を紹介。さらに、放射線科医側の「AIよりも人間の医師は総合的な判断ができる」「AIとの競合ではなく共存」「放射線科医はAIを指揮する位置に」という反論を示したうえで、これは内心の危機感の現れで、放射線科領域は業界全体で危機感を共有していると述べ、電子カルテに入る程度の情報は、すべてAIの対象になり、各学会はもっと危機感を持った方がよいと指摘した。
放射線医学でAIが使われるのは最後の診断だけでなく、AIによる、撮影法の選択、画質向上、転送効率向上など各段階で応用できると説明。特にディープラーニングによる画質向上は、各企業が競って開発しており、被ばくや撮影時間で制限のある小児科領域では特に有用ではないかと述べた。
最後に渡谷講師は、画像医学領域のAI研究はかつてないスピードで進んでいるが、社会の関心や研究レベルのスピードと製品の実用化、社会ルールの整備には大きなギャップがあると指摘。そのうえで、日本医学放射線学会は早くから危機感を共有し研究と実用化の両面から各方面と連携を図っており、小児科・小児放射線科領域でも応用可能性が大きく、AI時代に対応する必要があると訴えた。