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病理診断支援AI、まだ実用化にはほど遠いー第122回日本小児科学会学術集会

2019年5月22日(水)

2019年4月19日~21日に開催された第122回日本小児科学会学術集会のレポート記事です。

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第122回日本小児科学会学術集会(会頭・谷内江昭宏金沢大学医薬保健研究域医学系小児科特任教授)が4月19~21日、金沢市内で開かれ、20日には特別企画6「AI(人工知能)と医療~AIはこれからの医療をどう変えるか?~」があった。東京大学次世代病理連携学講座の佐々木毅特任教授は「AIによる病理診断支援」と題して発表し、「病理診断支援AIはスクリーニングには使えないが、ダブルチェック機能としての利用は可能ではないか」と指摘した。(MMJ編集長・吉川学)

不足・偏在・業務増加の病理医、AIの支援が必要

佐々木特任教授は最初に、日本の診断病理医は人口10万人当たりで米国の3分の1と少なく、病理専門医の約3の1が関東地方に偏在する一方、がん治療の増加に伴う病理診断件数が激増していると説明した。400床を超える急性期病院でも病理医不在が約20%、常勤病理医のいる病院でも40%が1人病理医で、産休・育休がとれない、ダブルチェックができないなどの問題点をあげた。病理医の日米比較では、日本では全身の疾患を診断する専門医数が2483人で全医師に占める割合が0.76%なのに対し、米は専門の臓器のみを診断する医師が1万8000人で全医師に占める割合が3.14%だとした。また、業務量の増加については、2005年の診断件数は214万3452件だったが、17年には364万4892件と1.70倍に増え、中でもがんのコンパニオン診断薬に用いる免疫染色件数は15万1248件から48万8412件と、3.23倍に増えたと話した。

これらの点からAIによる病理診断支援が必要で、AMED研究事業では保健医療人工知能の開発加速化で、重点6領域の中に画像診断支援が含まれていると述べた。内閣官房による未来投資戦略2017では、遠隔医療、AI開発・実用化があげられており、2022年度末の到達目標はAIホスピタルによる高度診断・治療システムの医療現場での実装だと話した。医療現場で必要なAIの機能としては、正確な画像診断・病理診断補助であり、このために大量の画像データが必要で、日本病理学会が主導しAI用画像を収集する病理画像情報集積プラットフォーム構築事業に取り組んでいると述べた。

これまでに10万8982症例と、病理デジタル画像(Pathology-whole slide imaging:P-WSI)は17万320枚を登録したと紹介。画像収集での最初の課題が、改正個人情報保護法であったと述べ、後ろ向き収集ではオプトアウト、前向き収集ではオプトインとし、匿名加工後、画像活用研究に展開していると述べた。臓器別の内訳をみると2018年3月末で、消化管4万4443枚、婦人科1万4224枚、リンパ網系・骨髄1万459枚に対し、内分泌395枚、腹腔1036枚、心臓・血管1673枚とかなりバラツキがあり、少ないものをどう集めていくかが課題だと指摘。また、電力周波数帯別に東西2拠点に分散、各拠点で二重化保存したうえ暗号化・秘密分散状態とし、3省4ガイドラインを遵守していると説明した。さらに、AMED研究費が途切れてからも継続して収集できるよう、自立持続型ネットワークを目指し、日本消化器内視鏡学会、日本医学放射線学会の3学会連携で取り組んでいると話した。

このうち1人病理医病院のための病理診断ダブルチェック病理診断支援AI開発について紹介。がんを含む4451検体を使い、AIにがん画像とがん画像でないもので学習させ、学習に使わなかった999症例(145症例ががんを含む)で、病理医の判断と比較しAIの性能を検証した。その結果、感度95.0%、特異度82.2%、不一致率16.2%で、まだまだ実用化にはほど遠く、スクリーニングには使えないと指摘したが、ダブルチェック機能としてはAIが警告した症例を見直すということで、精度管理には利用可能ではないかと述べた。

また、自身の研究である「人工知能技術を用いた病理画像データ診断の共通化に関する研究事業」については、術中迅速病理診断の見逃しをチェックするAIプログラムの開発において、リンパ節転移検出で永久標本では実用可能でも、迅速標本では正解率が92%だと話した。

AIは胃や大腸の生検、人は希少がん病理診断

最後に、病理診断AIにより病理医は本当に不要になるかについて①深層学習プログラムでは正解づくりに時間がかかり開発に思った以上に時間が必要②ブラックボックスといわれていたがソフト開発で可視化が可能③国際的にみても薬事承認された単独プログラムはない④病理医のAI教育が必要⑤希少がん診断に求められる病理医のファジーな頭の中をすべて俯瞰するAIの開発は困難⑥病理診断の現場で、何が本当に必要なAIかを再考する必要がある――などと指摘し、3年前に病理医はいらなくなるといわれていたが、それが変わってきたと述べた。

また、佐々木教授はAIがなすべきこととして、リンパ節転移病巣、がん病巣の検出など比較的単純な画像検出とし、胃や大腸の生検、婦人科手術のリンパ節転移をあげ、診断病理医の時間の創出に貢献するとした。一方、人がなすべきこととして、AI診断では困難とされる小児腫瘍、脳腫瘍、骨軟部腫瘍などの希少がん病理診断と、ゲノム医療・エキスパートパネル・分子病理専門医による病理診断外来をあげた。