米国の主要な癌センターを中心とした研究チームは、転移性メラノーマの免疫治療薬に関する新しい研究成果を米国外科学会ジャーナルで発表した。
今回の研究では、免疫治療薬T-VEC(Talimogene Laherparepvec /腫瘍融解性ウイルス)の奏功率について評価が行われた。T-VECは、メラノーマに対して選択的に免疫が働くよう設計された遺伝子組換えヘルペスウイルスである。腫瘍に直接注入されると、免疫を活性化する刺激因子(GM-CSF)を産出し、白血球が癌細胞を破壊するよう誘導する。T-VECは、ⅢB期~Ⅳ期の転移性メラノーマに対する治療薬として、2015年に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けている。
記事によると、研究チームは2018年10月1日までの3年間にわたり、T-VECによる治療を受けた80人の成人患者の奏功率を評価した。被験者の内訳は、ⅢB期が46%、ⅢC期が31%、ⅢD期が1%、そして治療時点で遠隔部位への転移が認められた患者が20%となっており、そのうち57%の被験者が今回の研究の前に何らかの治療を受けていたという。
被験者には、T-VECが平均で5サイクル投与された。その結果、約4割(39%)の被験者の腫瘍が完全に消失し、18%にも部分的な消失が確認されたという。研究を率いたノースカロライナ大学チャペルヒル校のDavid W. Ollila医師は「IIIB期の患者の奏功率は68%に達し、より病期の進んだ患者でも高い数値を示した」と述べた。追跡調査期間の中央値である12カ月時点で再発の徴候がなかったIIIB期の患者は59%に上ったという。
今回の成果は、T-VECのFDA承認時における臨床試験の全奏功率(26.4%)を上回っている。また、肺を含む他の臓器への転移が認められた患者の割合も、臨床試験の結果と比べて低かったとされる。
T-VECは忍容性も良好で、Ollila氏は「従来の化学療法に比べて副作用は軽度で限定的であった」と述べている。同氏によれば、副作用としてインフルエンザ様症状が出現したのは被験者のうち28%(22人)であり、口唇ヘルペスや感染症などの合併症状によって治療を中止した患者は5名のみだったという。
今回の研究結果は、従来の抗癌治療とT-VECを併用することで、より高い奏功率を実現できるのかという新たな課題を提起したといえる。Ollila医師と研究チームは、転移性メルケル細胞癌や局所進行扁平上皮癌などメラノーマ以外の皮膚癌に対する治療薬にT-VECを併用した場合の効果について、現在進行中の臨床試験で検証を続けている。
Ollila医師は「今回の研究によって、T-VECがメラノーマの治療法において、化学療法や外科手術などよりも有力な選択肢であることが裏付けられた」と自信を見せた。