甲状腺結節は極めてありふれたものであり、体内に存在する人の割合は67%にのぼる。甲状腺結節の大部分はがんではないため、何らかの症状を引き起こすことはない。しかし現在、その結節ががんであるかどうか不確実な場合、結節の対処法を説明したガイドラインは限られている。そこで、現在では結節が疑わしいと思われる場合は、超音波検査により、針生検を行うかどうかを決めている。しかし、針生検によってわかるのは、あくまで“覗き穴”からみた結節の姿であり、全体像はわかりにくい。そのため、このような生検では結節が悪性なのかどうか、確定できない場合がある。
針生検ではっきりとした結果がわからない場合、さらに遺伝子検査を行えば、悪性甲状腺がんに関連する特定の突然変異または分子マーカーの存在を同定することができる。こうして結節がハイリスクマーカーまたは突然変異について陽性である場合、外科手術を行って甲状腺を切除することがある。ただし、遺伝子検査を導入することが難しい小規模な地域病院も多い。
そこで、米トーマス・ジェファーソン大学の研究グループは、低コストで効率的な機械学習に注目した。超音波検査は医師が甲状腺結節へのアプローチ方法をより迅速に決定するのに役立つが、甲状腺結節の遺伝的リスク層別化の分野で機械学習を使用した研究は今までになかった。
研究グループは、患者の甲状腺結節の超音波画像にGoogleプラットフォームの機械学習アルゴリズムを適用して甲状腺結節の遺伝的リスクを予測したところ、高い精度で予測できることがわかった。将来的に、この予測方法は甲状腺がんの迅速で安価な初のスクリーニングとなるかもしれない。この研究は『JAMA Otolaryngology』で発表された。
研究グループはまず、超音波の予測力を向上させるために、Googleが開発した機械学習モデルを検討した。研究グループは、超音波ガイド下の針生検を受けて遺伝子診断を行った121人の患者の画像を機械学習のトレーニングにかけた。遺伝子診断で使用された遺伝子パネルに基づいて、134個の病変から、43個の結節が高リスクとして分類され、91個が低リスクとして分類された。アルゴリズムのトレーニングには、既知のリスク分類を使用した予備の画像セットが使用された。
この一連のラベル付き画像から、アルゴリズムは機械学習技術を使用して、高リスクおよび低リスクの結節にそれぞれ関連するパターンを抽出した。これらのパターンを使用して、将来の画像セットを分類するために独自の内部パラメーターセットを作成。この新しいタスクでさらにトレーニングを行った。その後、研究グループは、ラベルの付いていない別の画像セットでトレーニング済みモデルをテストし、遺伝子診断の結果と比較して、遺伝的リスクの高い結節と低い結節をどの程度正確に分類できるかを確認した。
その結果、研究グループは、アルゴリズムが97%の特異性と90%の精度で予測できることを確認した。特異性が高いということは、誤検知率が低いことでもある。つまり、アルゴリズムが結節を「悪性」と読み取る場合、本当に悪性である可能性が非常に高いことを意味する。最終的なアルゴリズムの全体的な精度は77.4%となった。
この研究成果は、機械学習が甲状腺がんの診断精度を改善する追加のツールとして有望であることを示唆している。将来的にこの診断方法は、医師と患者に対して、甲状腺がんの除去が必要かどうかを決定するための重要な判断材料になるかもしれない。
荒川友加理
1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。