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新生児の失明疾患リスク、AIで早期判定

2020年8月10日(月)

未熟児には網膜症のリスクがつきまとう。毎年、米国でのROP(未熟児網膜症)の発生率は約0.17%に上る。もし、網膜症を治療せずに放置すると血管の成長が悪化し、瘢痕が発生することがある。その場合、網膜が引っ張られ、剥離し、不可逆的な視力低下をもたらす。

低出生体重児では、スクリーニングによって網膜症の兆候がないか注意深くモニタリングされる。ROPのなかでも最も深刻なタイプのものが「侵襲性後部網膜症(AP-ROP)」である。しかも、AP-ROPは、その特徴が通常のROPよりも微小であり、把握が難しいため、診断を見逃してしまう可能性がある。そのため、日常の診療では、臨床医が眼底画像からAP-ROPの兆候を解釈する方法に大きなばらつきがある。最も経験豊富な眼科専門医でさえ、眼底画像がAP-ROPを示すかどうかについて意見にばらつきがあるのだ。

このような背景から、ポートランドのオレゴン健康科学大学のJ・ピーター・キャンベル主任研究員らによる研究グループでは、AP-ROPを迅速に正確に行うAIデバイスの開発に着手した。これまでの研究では、画像認識に使用されるディープラーニングは、眼底画像の微妙なパターンの検出とROPの分類において、専門家よりも正確だったことが分かっている。このたびの研究では、自動化されたROP分類子を使用して新生児を評価し、疾患の進行と治療への反応をモニタリングするため定量的血管重症度スコア(1-9スケール)が考案された。

今回、研究グループは、9つの新生児ケアセンターのデータを使用して、AP-ROPをどれだけ適切に検出できるかを判定した。この研究で用いた947人の新生児は、長期にわたって追跡され、合計5945回の眼科検査からの眼底画像が、AIと専門家チームの両方によって分析された。すると、フォローされたすべての眼球のうち、3%がAP-ROPを発症した。専門家の間では、読影者間でかなりのレベルの不一致があり、疾患の重症度の客観的な測定基準の必要性が示唆された。

また今回の研究によって、より明確で定量化可能なAP-ROP患者プロファイルが作られた。このプロファイルは、リスクのある乳児を早期に特定するのに役立つ。 たとえば、AP-ROPを発症した乳児は、早産で生まれた傾向があった。治療が必要だがAP-ROPを発症しなかった乳児と比較して、AP-ROP乳児はより体重が軽く(617 g vs. 679 g)、より早く生まれたのだ(24.3週間vs 25.0週間)。そして、 26週間後に生まれた乳児集団では、AP-ROPを誰一人発症しなかった。

AP-ROPによる急速な発症・悪化という傾向も再認識された。疾患が急速に進行することはもともとAP-ROPの診断基準に含まれていたが、現在までこの臨床的特徴を測定する方法はなかった。調査結果によると、血管重症度スコアの変化率をモニタリングすることで、AP-ROPリスクの検出を改善できる可能性があるという。

さらに、AP-ROPである乳児は、AP-ROPのない乳児と比較して、慢性肺疾患などの合併症を発症する可能性も高かった。キャンベル氏は、「肺疾患のある乳児に対して酸素濃度を高くすることで、眼疾患に影響を及ぼした可能性がある」と述べた。数十年前、研究者たちは出生時の高濃度酸素を日常的に使用することと網膜症の発症の増加の関係を示唆していた。酸素は生存には必要だが、それと同時に視力へのリスクを最小限にしなければいけない。キャンベル氏は 「この二つを両立させるのはまだ難しい」という。

今回のディープラーニングシステムである「i-ROP DLシステム」は、最近アメリカ食品医薬品局(FDA)から評価が下された。結果は、2月7日に『Ophthalmology』でオンライン公開された

荒川友加理

荒川友加理

1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。