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「まばたきする人工眼球」を作成、ドライアイの病態モデル解明に

2020年1月10日(金)

ドライアイは世界人口の14%が患っているとされるが、新しい治療法を確立するのが難しい。2010年以降、200件にも及ぶ臨床試験が失敗に終わっており、現在利用可能なFDA承認薬は2つしかない。その原因は、人間の目の複雑な病態生理をモデリングするのが難しいことが挙げられる。

ペンシルベニア大学医学大学院生物工学部の准教授であるDan Huhらの研究グループはこのたび、ドライアイの生理学および治療研究を推進するため、「チップ上でまばたきする人工眼球」を作成した。この研究は『Nature Medicine』に掲載された。

研究グループはまず、正常な目を模倣した眼球モデルを作ることに焦点を当てた。チップ上の目を作るために彼らは、3Dプリンターでできた多孔性の骨組みを作成した。それは10セントコインくらいの大きさで、コンタクトレンズのような形をしており、その骨組みの上で目の細胞を培養する。角膜細胞はその骨組み内で育ち、黄色に染められる。白目に相当する結膜細胞は、周縁の赤いサークルの上で育つ。また、ゼラチンで作られたまぶたは、人間が行うのと同じ間隔でスライドして目を覆う。青に着色された涙管は人工の涙を分泌し、目全体に行き渡らせる。

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CREDIT:University of Pennsylvania

一方、ドライアイのモデルを作成することは、単純に培養環境を乾燥状態にすればいいわけではないという。ドライアイはサブタイプの多い複雑な多因子疾患であり、その発症と進行の原因には、2つのコアなメカニズムがあることが新たに分かった。一つは涙液層から水分が蒸発することによって塩濃度が劇的に上がり、涙の浸透圧が上がること。もう一つは涙の蒸発量が増えることで涙液層がより早く薄くなってしまい、裂けやすくなることである。

こういった現象をドライアイのモデルに取り込むために研究グループは、人工まぶたを半分に切って、実際のドライアイの潤いを模倣した状態を慎重に作り出すことに成功した。複数の臨床実験を行ったところ、実際のドライアイに対する結果と、このチップ上の人工眼球の結果が似通ったという。

このモデルを用いた研究により、ドライアイは単なる炎症による慢性疾患ではなく、涙液層にかかる力学的負荷が重要な役割を果たしていることが判明した。涙液層が薄くなって不安定になると、まぶたと眼球表面の摩擦が増え、これが上皮表面を傷つけ、炎症のような有害な生物学的反応を示すのだ。

こういった観察がもとになり、ドライアイの局所的療法として眼科用潤滑剤の開発に対する関心が高まっている。現在、「ルブリシン」と呼ばれるタンパク質をドライアイの治療薬として用いる研究が行われている。ルブリシンは主に、関節を保護する流体潤滑の中に含まれている。ルブリシンベースの薬を用いた臨床試験の結果、チップ上の目でこの薬を使用した時、摩擦低減の効果を確認でき、さらに眼球表面の炎症を抑える作用もあったという。

研究グループは今回の成果を受け、「このたび開発した人工眼球は、まだ薬物検査の段階に着手したに過ぎない。この人工眼球をより進歩させ、薬物スクリーニングだけでなく、コンタクトレンズのテストや眼手術の研究など様々な領域に応用していきたい」と述べる。

荒川友加理

荒川友加理

1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。