外傷性脳損傷(TBI)は、特に発展途上国において死亡率が高く、重大な課題である。 最も重度のTBIの場合、ICUで治療されたとしても約3人に1人が死亡してしまう。
重度のTBIに苦しむ患者は意識不明であるため、集中治療が行われている間、患者の状態を正確に監視することが難しい。 ICUでは、患者の頭蓋内圧や平均動脈圧、脳灌流圧などの情報が継続的に監視される。これらの情報1つにつき、1日あたり数十万の数値が記録されるため、毎日それぞれの患者から数百万の数値が収集されることになる。この変動を医師がすべて把握することは不可能だ。
そこで、ヘルシンキ大学病院の研究グループは、重度のTBI患者をモニタリングするアルゴリズムの開発に着手した。このアルゴリズムによって個々の患者の転帰を予測し、患者の状態と予後、および治療中の変化に関する情報を提供できるかもしれない。
研究グループは2つのアルゴリズムを開発した。 1つ目のアルゴリズムは単純で、客観的なモニターデータのみに基づいている。 2つ目のアルゴリズムはやや複雑で、意識障害の分類に使用される「グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)」スコアで測定された意識レベルに関するデータが含まれている。 単純なモデルは3つの主要変数のみに基づき、複雑な方のモデルは5つの主要変数に基づいて計算された。
その結果、単純なモデルでは81%の精度で、複雑なモデルでは84%の精度で30日以内に患者が死亡する確率を予測できた。このたびの研究成果は、『Scientific Reports』に掲載された。
論文の筆頭著者であるヘルシンキ大学病院実験神経外科のラフル・ラジ氏は今回の研究について、「このような動的予後モデルは今までにないものです。ただ、これはあくまで概念実証であり、このアルゴリズムを日常の臨床診療に実装するにはまだ時間がかかります。しかし、我々の研究によってどのように、そしてどの方向に向かって集中治療が進化していくかを示すことができた」と語る。
荒川友加理
1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。