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新型コロナ、免疫が持続しない可能性も=「風邪」にヒント

2020年5月8日(金)

パンデミックの収束に関する多くの議論では、新型コロナウイルス感染症にかかって獲得する免疫がある程度長く持続することを前提としている。しかし、一般的な風邪の症状を引き起こす別のいくつかのコロナウイルスについての研究で、免疫が持続する期間はさほど長くないことが分かった。


2016年秋から2018年にかけて、マンハッタンにあるコロンビア大学の研究者は、191人の子ども、教師、救急隊員を対象に、鼻腔を拭った綿棒を収集し、くしゃみや喉の痛みがあったらそのことを記録してほしいと依頼した。一般的な呼吸器系ウイルスとそのウイルスが引き起こす症状、回復した人のそれぞれのウイルスに対する免疫の持続期間を把握することが目的だった。

研究対象のウイルスには、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、およびHCoV-229Eの4種類のヒトコロナウイルス(HCoV)が含まれていた。この4種類のコロナウイルスは毎年広く流行するが、一般的な風邪の症状を引き起こすだけなので、あまり注目されていない。しかし、同じコロナウイルス科に属する新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」が世界中で都市封鎖を引き起こしている今、軽度な症状を引き起こすコロナウイルスに関する情報はパンデミックの今後の展開を予測するヒントになる。

コロンビア大学の研究者が発表した暫定的な報告書は不安をもたらす内容だ。人は頻繁に同じコロナウイルスに再感染し、同じ年に再感染することさえあり、人によっては複数回再感染することもあることが明らかになった。1年半の調査期間に調査参加者の12人が同じウイルスに対して2回または3回陽性反応を示した。そのうちの1人はわずか4週間後に再び陽性反応を示した。

この結果は、一度感染すれば免疫が生涯持続するとが見込まれる麻疹(はしか)や水痘などの感染症とまったく異なるパターンを示している。

研究対象とした4種類のコロナウイルスでは「免疫の持続期間が極めて短いようです」と語るのは、博士研究員のマルタ・ガランティと共同で研究を実施したジェフリー・シャーマン教授だ。

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コロンビア大学で「マンハッタンの生体内ウイルス集団(Virome of Manhattan)」研究を主導するジェフリー・シャーマン教授。同研究では、人が風邪の原因となる同じ病原体に頻繁に再感染し、一部のコロナウイルスに対する免疫の持続期間は短いことが示された

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が同じパターンに従うかどうかは不明だが、コロンビア大学が示したこの研究結果は、パンデミックについての議論の多くが誤解を招きかねないことを示唆している。新型コロナウイルス感染症の収束をめぐっては、「感染ピーク越え」を目指す議論や、回復した人への「免疫パスポート」交付について話している人もいれば、感染が一般に考えられているより広範囲に拡大し、多数の死者を許容して感染拡大を抑えるのに十分なレベルの集団免疫を獲得することを望んでいる人もいる。

こうした人々は、免疫が長く持続すると想定している。だが、免疫は一時的なものに過ぎない可能性があるのだ。

メリーランド大学でコロナウイルス科を専門に研究しているマシュー・フリーマン准教授は、「私はこれまで、体内に抗体ができても、毎年冬にコロナウイルスに感染すると伝えてきました。誰も私の話を信じませんが、真実です」と語る。つまり、ほとんどの人の身体ですでにコロナウイルスに対する抗体が作られていたとしても、その人たちは再びコロナウイルスに感染するということだ。「時間の経過に伴いコロナウイルスが変化するからなのか、抗体が感染を予防できないからなのか、理由はまったく分かっていません」と、フリーマン准教授はいう。

決定的要因

現在、世界はパンデミックの最中にある。つまり、人が非常に感染しやすい新しいウイルスが地球上で急増している状態だ。人類はまだ新型コロナウイルス感染症に対して無防備だ。4月26日現在、確認された感染者数は約300万人。すなわち、世界で2500人に1人が感染している(実際の感染者数は間違いなくそれ以上だが、それでも感染者数はおそらく世界人口のごく一部にすぎない)。世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局の葛西健事務局長は、ワクチンが利用可能になるまで世界は「新しい日常」に備えるべきだと警告した。

ただし、さらに長期的な視点では、社会的距離戦略(ソーシャル・ディスタンス)や航空便の運行停止などの変化は、人類の運命を定めるもっとも大きな要因にはならないかもしれない。最終的に新型コロナウイルス感染症の死者数を決定するのは、人々が新型コロナウイルスに対する免疫を獲得するかどうか、およびどのくらいの期間免疫を獲得するかどうかだと考える研究者もいる。

新型コロナウイルス感染症に関する初期の研究では、再感染に対する少なくとも一時的な予防効果が示唆されている。12月に中国で最初の症例が報告されて以来、明確に2度感染したと決定付けられた感染者はいない。韓国などで再び陽性反応を示した感染者はいるが、検査エラーか体内でのウイルスの長期残存が原因と見られている。

スタンフォード大学のマーク・デイヴィス教授は、「感染して回復した人は数多くいます。回復した人たちは自由に歩き回っていて、再感染したり他の人にうつしたりしているようには思えません」と述べている。ジョンズ・ホプキンス大学の感染者数ダッシュボードによると、新型コロナウイルス感染症から回復した人は4月26日の時点で80万人以上確認されている。

中国の研究者はさらに、アカゲザルが新型コロナウイルスへの2回目の感染に耐性を示すかどうかを直接テストした。新型コロナウイルスに感染させて回復したサルに、最初の感染から4週間後に再感染を試みた。2回目の感染ではサルには症状は出ず、研究者たちはサルの喉にウイルスを見つけられなかった。

知りたいのは免疫の持続期間だ。しかし、アウトブレイクからわずか5カ月しか経っていない現在、それを知る方法はない。免疫が生涯持続するなら、回復者が増えるごとに新型コロナウイルスの蔓延に対する恒久的な防壁が強化されることになる。しかし、風邪の原因となる4種類のコロナウイルスの場合と同様に免疫持続期間が短い場合、新型コロナウイルス感染症は、毎年冬になると流行する致死率の高い厄介な季節性の新型インフルエンザになる可能性がある。

新型コロナウイルスのパンデミックに関する最新のコンピューターモデルでは、免疫の持続期間が重要な要因となり、おそらく決定的な要因であることがわかった。サイエンス誌で発表されたハーバード大学開発のモデルは、新型コロナウイルス感染症が季節性になることを示している。すなわち、世界人口の免疫の高まりと低下というサイクルに合わせて、1年か2年おきに冬になると復活する。

さまざまなシナリオをテストした後、ハーバード大学の研究グループは、今後数年間で何人が新型コロナウイルス感染症に感染することになるかについての予測は、「集団免疫の程度、免疫が弱まるかどうか、および免疫が弱まる割合」に「もっとも大きく」依存すると結論付けた。言い換えれば、アウトブレイクの今後の展開を予測する上での決定的な要因もまったく未知であるということだ。

季節性ウイルス

他の非常に数多くのヒトコロナウイルスは軽度な症状を引き起こすだけなので、インフルエンザほどには注目されてこなかった。変異し続けるウイルスが引き起こすインフルエンザは注意深く観察され、遺伝子学的に分析されて毎年新しいワクチンが開発されている。しかし、一般的なコロナウイルスの場合、たとえば、免疫システムを回避できるように変異するのかどうか、あるいは免疫の持続期間が非常に短い理由が他にあるかどうかすらまだ分かっていない。

「コロナウイルスの世界的な監視活動は存在しません」。南アフリカの西ケープ大学のウイルス学者であるバートラム・フィールディング教授は言う。この分野の科学報告書を調査するフィールディング教授は、「普通の風邪には年間200億ドルの費用がかかっています。しかし、普通の風邪では死者が出ないので、ウイルスを監視していないのです」という。

国防総省から資金提供を受けてシャーマン教授が率いた「マンハッタンのグローバル・ヴァイローム・プロジェクト」は例外的存在だ。同プロジェクトでは、マンハッタンで流行している一般的な感染症の現状を追跡する「ナウキャスティング」を最終的な目的として、呼吸器系ウイルスを検出を開始した。

研究結果の1つは、同じコロナウイルスに2回感染した人は、2回目に症状が軽くならなかったということだ。その代わり、まったく症状が出ない人もいた一方、2回か3回ひどい風邪をひいた人もいた。シャーマン教授によると感染の重症度は家系特有の傾向があり、遺伝的根拠を示唆しているという。

ここでもっとも問題となるのは、風邪を引き起こすコロナウイルスに対する免疫が時間と共に弱まり、短期間しか持続しないという事実が、新型コロナウイルス感染症にどのような意味があるかだ。新型コロナウイルス感染症が症状の重い風邪として常在し、毎年人口の10%から20%が感染し、100人に1人が死亡し続けることになる可能性があるのか。もしそうなるのであれば、現在の世界の人口増加率を10分の1にすることが可能な疫病になるだろう。

この問題は悲観的過ぎて深く考えることはできないと感じている科学者もいる。シャーマン教授も、新型コロナウイルス感染症がどのようにふるまうことになるかを推測したくないと考えた。同教授はメールで次のように述べている。「基本的に、いくつかの未解決の問題があります。新型コロナウイルスは一度感染すれば終わりなのか。そうでない場合、どのくらいの頻度で感染が繰り返されることになるのか。最後に、感染を繰り返すごとに症状は軽くなるのか、同じなのか、それとも悪化するのか」。

免疫調査

こうした疑問に答えるために、免疫に関する大規模研究がすでに進行中だ。ドイツでは新型コロナウイルスに対する抗体について国民を調査する計画があり、北米ではメジャーリーグ野球の選手や職員1万人が指先から採血した血液サンプルを研究のために提供している。米国立衛生研究所(NIH)も4月に、1万人から血液を採取する「新型コロナウイルス感染症パンデミック血清サンプリング研究」を開始した。

このような血清調査で人の血中の抗体をチェックすることで、無症状の人や軽症で済んだ人を含め、何人が新型コロナウイルスに曝されたかを判断できる。

研究者はまた、新型コロナウイルス感染症患者の血液を徹底的に調べて、免疫応答の性質と強度を測定し、病気の症状の度合いに関連があるかどうかを調べることにしている。「現在、新型コロナウイルスで分かっているのは、免疫モニタリングの必要性です。一部の感染者は簡単に回復し、他の人は死亡しているからです」とデイヴィス教授はいう。「大きな差があるのに、理由は分かっていません」。

ヒトの免疫システムには新しい細菌に反応するためのさまざまなメカニズムがある。B細胞によって作られた抗体はウイルスに結合し、ウイルスの細胞への感染を防ぐ。一方、T細胞は免疫応答を制御したり、感染した細胞を破壊したりする。感染を撃退すると、B細胞とT細胞の「長期記憶」バージョンが形成される。

新型コロナウイルス感染症はどのような免疫記憶をもたらすのだろうか。ハーバード大学の遺伝学者であるスティーブン・エレッジ教授は、新型コロナウイルス感染症の重症度は通常の風邪の免疫記憶とは異なるカテゴリーに分類される可能性があると語る。「1週間の風邪の症状と比較して、3週間重症で苦しんだ場合は、もっと多くの免疫記憶を長期間もたらすかもしれません」とエレッジ教授はいう。

2002年から2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)からもヒントが得られる。新型コロナウイルス感染症よりさらに致命的なSARSのアウトブレイクから6年後、北京の医師たちが回復者の免疫応答を探したところ、抗体も長期間持続するメモリーB細胞も発見されなかったが、メモリーT細胞が発見された

約8000人の感染者が出た時点でSARSのアウトブレイクは阻止できたため、どの感染者もSARSに再感染することはなかった。しかし、メモリーT細胞の存在は、免疫が持続していることを示す証拠かもしれない。その後のマウスを使ったワクチン研究では、科学者がマウスをSARSに再感染させよう試みたときに、メモリーT細胞がマウスを最悪の症状から保護していることが分かった。

コロナウイルスに対する免疫応答に関するこのような不確実性から、今回の新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクがいつ、どのように収束するかは、まだほとんど予測できないとメリーランド大学のフリーマン准教授は考えている。「アウトブレイクがいつ収束するのかはわかりません。もし、知っていると言う人がいたら、その人は何も分かっていません」(フリーマン准教授)。


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