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ハーバード大教授に批判殺到「DNA出会い系サイト」は優生学的か?

2020年1月5日(日)

ハーバード大学の著名遺伝学者が創業メンバーに名を連ねる米国のスタートアップ企業が、遺伝子検査結果に基づいてパートナー探しを支援するサービスを開発。優生学的だとの批判が殺到する一方、研究者は社会的意義を強調している。


ハーバード大学医学大学院の遺伝学者であるジョージ・チャーチ教授は、12月8日に放送された米CBSのニュース番組「60ミニッツ(60 Minutes)」で、自身の研究室が開発中の遺伝子を使ったマッチングアプリについて、「遺伝性疾患を一掃できる」とさりげなく語った。

DNAに基づいてユーザーをマッチングさせるデートアプリ?
ジョージ・チャーチ教授は、このアプリを使って、両親から遺伝性疾患を受け継ぐことを解消できると主張している。https://t.co/k2lP5JdI1v pic.twitter.com/o9qhjnDB5y

— 60ミニッツ (@60Minutes) 2019年12月10日

主要メディアとソーシャルメディアはすぐさまこれに反応したが、そのほとんどは否定的なものだった。聴覚障害者は憤慨し、トランスジェンダーの人たちは怒りをあらわにした。さらに一部の科学者が「優生学的だ!」と不快感を示した。

1. 実質的にこれが上手くいく可能性はありません
2. 根本的に優生学的です
3. 皆さん、冗談抜きでマッチングアプリにDNA情報を与えてはいけません
4. このアプリはおそらく『超』人種差別的なものになりますhttps://t.co/KG6vckIPWq

— 健康オタク (@GidMK) 2019年12月9日

怒りに満ちた記事はいずれもアプリの詳細に言及していなかったが、MITテクノロジーレビューは、チャーチ教授の研究室からスピンアウトした新しいDNAマッチングサービスを提供する企業に関する詳細情報を独占入手した。

ディジッド8(Digid8)と呼ばれるこのスタートアップ企業は、「ハーバードで教育を受けた科学技術者兼イノベーター兼教育者」を自称するバルガヴィ・ゴヴィンダラジャンによって2019年9月に設立された。チャーチ教授によると、ゴヴィンダラジャンは同社の共同創業者だという。

ディジッド8 は、「デート」のネットスラングである「D8」から名前を取っており、チャーチ教授いわく「全ゲノム・デーティング(交際)」を追求する企業だ。

そのアイデアは、DNA比較を活用して、テイ・サックス病や嚢胞性線維症を引き起こす遺伝子変異を有する者同士が、出会い、恋に落ち、子を授かることが起こらないようにしようというものだ。

このアプリのユーザーは4タイプであると予想しています:

1 – エアロバイクのCMに出てくる夫
2- ネオナチの若者
3- 誤って従兄弟・従姉妹とデートする羽目になることを望まないユーザー
4- 生物兵器を作る中国人ハッカー

少なくとも正確にブランドを表現するとしたら…「ユーバー (Euber)」がいいでしょう

— アンドレア・ダウニング (@BraveBosom) 2019年12月9日

劣勢遺伝は何千とあるが、そうしたものの中から、両親のそれぞれから1つずつ、合わせて2つのリスク遺伝子を受け継ぐと、子どもはその遺伝子に起因する疾患を発症する。発症確率は通常およそ25%である。

挑発的なプロジェクトの魅力に惹きつけられている研究室を運営するチャーチ教授は、ディジッド8が「GPSのように」既存マッチングサイトのバックグラウンドで動く遺伝子アプリを開発しており、アプリのサービスを通じて同じリスク遺伝子を持つ人々の出会いを防ぐと話す。

ゲノム・シーケンシングには現在でもおよそ750ドルの費用がかかるが、費用は下落傾向にある。月額50ドルの出会い系サイトの会費に費用は組み込めるとチャーチ教授は考えている。

我々は優生学的な考え方に無頓着になっています
我々は優生学的な考え方に無頓着になっています
我々は優生学的な考え方に無頓着になっています
我々は優生学的な考え方に無頓着になっています
我々は優生学的な考え方に無頓着になっています
我々は優生学的な考え方に無頓着になっています
我々は優生学的な考え方に無頓着になっていますhttps://t.co/B8VkSKnhSr

—ナイル・ディマルコ (@NyleDiMarco) 2019年12月9日

チャーチ教授は複数の投資家とともに、自らもこのスタートアップ企業に資金を提供していると述べたが、投資家の名前は明らかにしなかった。60ミニッツでチャーチ教授は、「全世界で年間約1兆ドル」の費用がかかる無数の疾患を低コストで撲滅できる方法になる可能性があると主張した。

チャーチ教授の研究室は、性犯罪で有罪となったジェフリー・エプスタインから研究資金の提供を受けており、出会い系サービスに名乗りを上げるのには好ましくないタイミングだった。エプスタインとの関係は、チャーチ教授の60ミニッツでの発言「炎上」に油を注いだ。

マッチングアプリに関する自身のコメントが60ミニッツで放送されるとは思っていなかったと語るチャーチ教授は、自らの考えを説明しようと、大急ぎで書いたと思われるFAQを12月11日に急遽発表した。

同教授は、扇情的な見出しをつけてサイトへの誘導を図る批評家は「複雑な問題について熟考する」時間をかけていないと述べた。

このFAQによると、交際希望者は依然として95%の人とマッチングが可能である。チャーチ教授は、アプリを通じて健康データが他人に提供されることはなく、リスクのあるマッチングを除外する目的のみに遺伝子情報が使用されると話した。

では、ディジッド8は優生学的なのであろうか。その答えは「はい」でもあり、「いいえ」でもある。通常、優生学とは国家による「強制的な」避妊手術、繁殖の強要、人民の根絶を指すからだ。

このサービスは深刻な疾患を有する人間の誕生を避けようというものであるが、その考えを誰もが支持するわけではない。ヴァイス・ニュース(Vice News)は、社会から取り残された人々を攻撃する「恐ろしい」開発だと主張する。

「すべてを排除する」のではなく、最も深刻な疾患の発症率を減らすのです。優生学(米国、ドイツなど、1920~1970年)は、人間の生活と個人の生殖選択を妨げました。テイ・サックス病などの深刻な疾患の遺伝的リスクを理解するには、https://t.co/rUYjT10m1nが役立ちます。

— ジョージ・チャーチ (@geochurch) 2019年12月9日

現実には、すでに医学でそのような状態の回避が試みられている。「受胎前」遺伝子検査は、子を持つことを計画しているカップルに一般的となっており、IVF胚が遺伝子に基づいて検査・選択されることもある。出産予定の親の中には、好ましくない検査結果の場合、中絶を選択する人もいる。

「すでに恋に落ちた後に検査をしたのでは手遅れと言っても過言ではありません。子どもの4分の1が罹患します。恋に落ちる前に戻ることができれば、ずっと前向きなメッセージを受け取ることができます」とチャーチ教授は話す。

「科学はあなたの相棒です」をモットーとするディジッド8は、まだ動き出したばかりだ。同社のWebサイトのページは「準備中」となっており、リンクトイン( LinkedIn)によるとメンバーは前述のゴヴィンダラジャンだけだ。

チャーチ教授は、かつていくつかの会社の起業を試みたことがあるゴヴィンダラジャンが、インタビューを受けることを望んでいないと語った。しかし、サイトの求人広告によると、ディジッド8は、「学生や忙しい職業人向けのマッチングおよび適用可能テクノロジーを再考」しており、「長期にわたって人々の生活を妨げる可能性がある、予測可能な要因を積極的に抑制することに注力」するとなっている。

チャーチ教授は、遺伝学を活用して疾患を予防するというアイデアを長年温めてきたと語る。ブルックリンのユダヤ人グループ「ドール・イェショリム(Dor Yeshorim)」から発想を得ており、同グループでは、正統派コミュニティのティーンエイジャーに検査を実施し、その情報を結婚の相手探しに役立てている。その結果として、ユダヤ人グループで発症頻度が高い致命的な神経変性障害であるテイ・サックス病の発症率は低下した。

@geochurchのマッチングアプリに関して、優生学的であると騒いでいる輩がいます。反射的な反応はちょっと控えて、それについて考えてみましょう。

1. それは優生学的ではありません。このマッチングアプリは、対立遺伝子を絶滅させるものではありません。実際、上手くいけば、疾患の対立遺伝子がわかることで、負の選択を回避できるはずです
1/n

— ヤニフ (((エルリッヒ))) (@erlichya) 2019年12月11日

マッチングアプリはすべてが自動化されており、全ユーザーに適用されるが、そこには新たなテクノロジーはあまりないとチャーチ教授は話す。「すべての要素が成熟したものであり、単に遺伝的マッチング作成ソフトウェアを使って、全ゲノム・シーケンシングと暗号化技術を結び付けているだけです」。

自動化されたアプリでは、テスト実施対象のリストを大幅に広げることが可能となる。現在の受胎前検査では、数十項目のリスク遺伝子を探せるが、ディジッド8は数百項目に広げる可能性がある。

その一方でDNAマッチングは、一部の人から問題視される可能性がある多くのアプリケーションを認めることになるであろう。

例えば一部の文化では、特定の階級、氏族、部族内でのみ結婚が試みられる。ディジッド8のWebサイトに掲載された求人広告は、同社が科学を活用して「直系適合性」などを評価するマッチングサービスを創造することで、「未開」の市場を追求すると主張している。これは明らかに、ペルシャ湾岸地域やインドで行なわれている集団の自己隔離の慣行に言及したものである。

チャーチ教授は、この掲載内容は誤りであり、共同創業者に変更を求めたと語った。このアプリでは、その種のマッチングを促進するために、先祖に関する情報を提供したり利用したりすることはないと言う。「それは取り扱う内容ではありません。明確に私たちのビジネスモデルではありません」。

もう1つの微妙な問題は、ハンチントン病のようないわゆる優性の疾患遺伝子を持つ人々をどうするのかということである。このような遺伝子変異を持つ人は間違いなく発症するし、パートナーの遺伝子の寄与に関係なく、子どもは50%の確率で発症する。

その情報は確かに有益である可能性がある。ハンチントン病を発症する相手との結婚を望まない人もいるかもしれない。

しかしチャーチ教授は、このアプリでは優性の疾患遺伝子を持つ人に対し、交際を阻止することはないと話す。「そのことは前もって伝えています。交際相手として十分魅力的で健康であれば、問題ではありません」。

本当に問題ないのであろうか。子どもが病気になることを避けるのが 、元々の考えではなかったのではないだろうか。チャーチ教授の言い分は一貫性を欠くように思える。しかし、アプリが、存在するあらゆる人の交際のを阻止するのであれば、本当に優生学的な問題になるであろう。


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