エムスリーAIラボとAI特化型インキュベーターであるディープコアがAIで解決できそうな医療課題を持つ医師とAI開発者とのマッチングを目的としたピッチイベントを2018年9月29日に開催する。今回、AIで解決できそうな医療課題を持つ医師の募集にあたって、「ディープラーニング技術シーズと医療ニーズを組み合わせたところに何があるのか」をディープコアのVP, Business Develpment 松井孝之氏に話を伺った。
ディープコア WEBサイト http://deepcore.jp
ディープコアとはどういう会社ですか?
株式会社ディープコアは、ディープラーニング(深層学習)を中心としたAI技術領域に特化したインキュベーターです。若手の優れたAI技術者や研究者人材を起業家に育成することを目指しています。日本では今でも終身雇用や新卒一括採用といった旧来の枠組みのなかで優秀な人材は埋もれがちです。優れた能力を自由に発揮できない社会は停滞してしまいます。私たちは起業家を増やすことで日本に革新をもたらし、産業界を盛り上げたいと考えている集団です。
なぜAI、中でもディープラーニング特化なのですか?
ディープラーニングは、あらゆる産業に応用され、社会を大きく変えると考えられている注目の技術です。ですが日本では社会実装がまだあまり進んでいません。日本では起業家数が少なく、技術者が起業するケースはさらに限られています。ディープコアでは、技術の可能性を信じて、技術で社会を変えたいという志を持つ方々と並走しながら、破壊的イノベーションを起こしたいと考えています。
具体的にはどのような活動を行なっていくのですか?
コミュニティ、実証実験、起業支援の3本柱でインキュベーションを進めていきます。「KERNEL(カーネル)」と名付けたコミュニティ&コワーキングスペースの運営、企業や団体との実証実験、そして有望なAIスタートアップへの投資を行います。
拠点である「KERNEL」について教えてください。
「KERNEL」は、DEEPCOREのインキュベーション対象メンバー向けのコミュニティ&コワーキングスペースです。メンバーは、AI技術者、AI研究者、AI適用分野人材を対象としています。5月上旬に「KERNEL HONGO」をプレオープンしました。今後、施設の支援内容や内装等を充実させて、8月に本格オープンする予定です。
KERNEL WEBサイト
http://kernel.deepcore.jp
メンバー数は?
2月頃からメンバーを公募して、面談等の選考を行い、5月末現在で約80名のメンバーが参加しています。当初は50名の予定で公募したのですが、その後も期間で区切らず通年で募集を続けているので、興味を持っていただいた多くの方々に継続して参加していただいております。
メンバーの内訳は?
大学の学部生・院生が半分以上で、それ以外が社会人の方々です。非常に優秀な方々が集まっています。
社会人の方は、どういうプロファイルですか?
たとえば、眼科医として臨床を行いながらディープラーニングを活用した医療を研究されている方がいらっしゃいます。ほかにも企業で研究をしながら個人的にも広く研究を行いたいという方々など、様々な方がいらっしゃいます。
KERNELには実際にコードを書くAI技術者だけではなく、AI適用分野(農業、金融、医療、教育、生物、ロボット、数学、脳科学、宇宙、都市工学、心理学、化学等)の有識者にも多く参加していただいています。
このように、AI技術者や起業に興味を持っておられる方だけではなく、AI適用分野の方々も多くいらっしゃいます。AIは、AI技術単独ではなく「AI×適用分野」というかたちで実装されるものと考えています。私たちとしても当該領域の課題を取り違えてしまうと意味のある社会実装が行えないことから、KERNELのなかで現場のイシューと技術を組み合わせていくのが効果的だと考えています。特に医療領域についてはそれが重要だと考えています。
メンバーがディープコアに集っている理由は?
様々な理由がありますが、一つは、計算機資源が使えることです。80名のメンバーが24時間、GPU計算機資源を使える状態で運営を行っています。こちらに魅力を感じていらっしゃる方も多いです。我々はNVIDIA様とも提携しているので技術支援も受けられます。また、データを扱う際のセキュリティに関しても配慮しています。
メンバーには、自分が所属している専門領域を超えて広く色々な方々と交流したいと考えている方が多いです。専門領域を超えて交流することで新しいアイデアが生まれることを我々も期待しています。まず、世の中にどんなイシューがあり、どんな生きたデータセットがあるのか、自分が持っている技術をどう適用できるのか検討できる場所として考えていただいている方が多いと思います。
メンバー同士はどのように連携しているのですか?
現在は開始したばかりですので、メンバー間のSlackやコミュニティマネージャーを起点とした交流などで、互いにどんなことをやっているのか、徐々に把握していっている段階です。今後、メンバー向けイベントの開催や実証実験のチームアップ等で、本格的なコミュニティ運営を行っていきます。
実証実験は具体的にどのように運用されていくのですか?
我々はソフトバンクグループですので、グループの事業を通して顧客と話す機会があります。そのなかで企業様が持つ課題や、解決のためのデータセットにどんな使い方があり得るのか、具体的にご相談いただく機会があります。そうした企業様と「KERNEL」のメンバーと知見や技術を繋いでいきます。今はテーマをリスト化している段階です。定期的に説明会を行って、メンバーの中から興味ある人間が手を挙げるというプロジェクト制を取ろうとしています。様々な機会をメンバーに提供しながら、色々な立場の方とうまく出会いを繋げていきたいと考えています。ブリッジとして繋げるだけではなく、我々自身も加わって、実証実験を進めていこうと考えています。
起業前に「プロジェクト」段階があるわけですね。
そうです。プロジェクト段階で儲けを取ろうとは思っていません。ただし無償でやってしまうと自らビジネスの芽を摘んでしまうことになりかねませんので、参加メンバーが動いた実工数分だけ対価を頂くことにしています。たとえば3人チームで3ヶ月組むのであれば、実工数を組む前に、テーマやデータセットをご提供いただくドメインの方々と合意させていただいた上で進めていきます。
業務請負ではなく、あくまで技術適用の可能性を追求させていただく試みとしてプロジェクトを進めます。そのなかでメンバーがずばりそのまま起業できれば、それを支援していくことになりますが、起業となると、データセットをそのまま使うわけにもいきませんし、それほど単純ではないと考えています。実証実験を繰り返していくうちに「この分野で起業したい」ということに繋がると考えています。私たちからメンバーに対して特定のプロジェクトを充てがうことはしません。あくまで起業家を後押ししていくのが我々の役割です。
実証実験に参加する企業側は、LP(リミテッド・パートナー)としてファンドに参加することになるのですか?
そのようなことはありません。LPとして出資に参加されていなくても、実証実験には参加いただけます。
実証実験を通して生まれた知財については、どのように考えていますか?
いろいろな捉え方がありますが、今春、知財に関するガイドラインができましたので、それらをベースに整理させていただこうと思ってます。基本的には、知財について懸念するあまりに実証実験を後回しにする損失よりは、互いに枠組みだけ整理しておき、まずは検討をスタートしようというケースのほうが多いと考えています。
ピッチでは、どのようなことを期待されますか?
我々は医療領域について強い関心を持っております。メンバーにも具体的に医療の領域で技術適用を検討しているメンバーもいます。ピッチによって、さらに多くの人が興味を持つと思います。また画像認識や物体検出の領域を追っているけれど、より広い領域で検討できないかと考えて、医療分野に興味を持っているメンバーもいます。実際のイシューを聞かせていただき、できれば一緒に実証実験で検討してみたいと考えています。
また、ディープラーニング技術者が少ないと言われるなかで、かなり優秀なメンバーに入ってもらえていると思っています。ご相談させていただく先生方にも良い機会として捉えていただけるのではないかと考えています。
海外の状況と日本の状況が違うという話がありました。どのように差分を埋めていくのでしょうか。
基本的には技術力の差ではなく、そこに取り組む人数の母数の差だと考えています。たとえばディープラーニング技術の医療分野への適用については、内視鏡画像を用いた胃がん発見やピロリ菌感染発見、眼底画像を用いた網膜剥離判定の事例がよく知られています。これらはその分野の優秀な先生がいることで生まれている適用例だと思います。ただ、エンジニアリングと一緒に組んで研究する人材がそもそも少ないので、局地的な取り組みに留まっているのではないでしょうか。
2012年頃から始まってきた新しい技術のうねり(ディープラーニング)を試してみると、どういう結果になりえるか。医療分野に興味を持つAI技術者が増えることで、新しい進展が生まれるのではないかと期待しています。
専門性も重視しつつ、同時に広く各適用領域の情報を知る機会を作ることで、ニーズのある領域とうまく連携できる仕組みを作りたいと考えています。
ディープラーニングには様々な適用可能領域があります。今までのアプローチで解決できなかったものが、新技術の適用によって新たな可能性が生まれるならトライしないともったいないですので、ぜひ実証実験の機会を増やしていきたいです。日本だけに留まらず世界も視野に入れ、新たな可能性を持つ人材と一緒に取り組んでいきたいと思っています。
ディープコアとしてはベンチャーを支援することで、何を期待しているのですか?
いまの世の中の流れを見ていると、これまでに比べ、短期間で大きく成長し、イノベーションを起こす企業が生まれています。AI分野にもそれがあてはまると考えています。その分野でスタートアップを支援することは社会的にも非常に意義があると考えていますし、大きな可能性があると思っています。
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