アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究グループが、消費者向けスマートウォッチを強力な生化学的健康監視システムにアップグレードできる薄い粘着フィルムを開発した。この粘着フィルムは汗に含まれる物質を分析することで、体内変化を即時に解析する。その技術の詳細を記した研究が、『Science Advances』誌に掲載された。
すでに、スマートウォッチは歩行距離や睡眠時間、心拍数だけでなく、血圧も監視することができる。また、スマートフォンと連携すれば、これらの計測結果を長期間にわたって記録することもできる。しかし、現在、販売されているスマートウォッチでは、体の化学的性質をモニタリングすることはまだ不可能である。それを可能にするためには、体液に含まれるバイオマーカー分子を追跡できるようにする必要がある。
今回の開発を行った研究グループのリーダーをつとめる、カリフォルニア大学 ロサンゼルス校工学部電気工学科のサム・エマミンジャド准教授は、過去数年にわたり、ウェアラブル技術を使用し、汗の中のバイオマーカー分子を検出する研究をリードしてきた。そこで、研究グループはスマートウォッチの裏側に貼り付ける使い捨ての両面フィルムとデータを記録するためのアプリを開発した。このフィルムは代謝物や特定の栄養素など、汗に微量に含まれる分子を検出できる。
今回の研究で開発した粘着フィルムのうち、肌に触れるほうの面は、汗の滴の化学的組成を収集して分析する。そして時計に貼り付ける方の面では、これらの化学信号を電気信号に変換し、読み取り、処理して、スマートウォッチに表示できる。
この粘着フィルムでは、センサーを両面接着剤と垂直導電性フィルムで作ることにより、外部コネクターの必要性をなくした。こうすることで、センサーとスマートウォッチの統合が容易になるだけでなく、化学物質のデータ収集を妨げるユーザーの動きの影響も排除できる。また、適切な酵素感知層をフィルムに組み込むことにより、体の代謝レベルを示すブドウ糖と乳酸塩、およびコリンなどの栄養素の変化も測定できるようにした。
研究グループは、座ってばかりの人、オフィスワークをしている人、ボクシングなどの活発な活動にいそしむ人を対象にこのフィルムを使い、システムがさまざまなシナリオにおいて効果的であることを明らかにした。また、リストストラップがなくとも、皮膚および時計からはがれることがないほど十分な粘着性があることもわかった。
エマミンジャド准教授はこうコメントする。「スマートウォッチとウェアラブルテクノロジーを組み合わせることで、何億人という規模の生理学的に関連するデータセットを得られると考えています」。
荒川友加理
1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。