健康状態を非侵襲的に監視するウェアラブルバイオセンサーの人気が、大人たちの間で高まっている。しかし、この機器を乳児向けに適用させるのは難しい。なぜなら、デバイスはたいてかさばるものであったり、乳児の繊細な皮膚を傷つけるような硬い材質のものだったりするからだ。
そのような状況の中で、唾液のリアルタイムグルコースレベルを追跡するおしゃぶりバイオセンサーが開発されたという。米・カリフォルニア大学サンディエゴ校ナノエンジニアグループのジョセフ・ワン氏および、スペイン・アルカラ大学理学部化学工学科のアルベルト・エスカルパ氏をはじめとした研究グループによるこの研究結果は、アメリカ化学会のジャーナル『Analytical Chemistry』に掲載された。最終的には、乳児患者の糖尿病診断と治療にも役立つと考えられている。
世の中に存在するウェアラブルバイオセンサーには、衣服に組み込むタイプのものや、皮膚に装着させるタイプのものがある。しかし乳児にこれらのデバイスを長期間使用しようとする場合、不快感を簡単に伝えられないという問題点がある。
従来の乳児用のウェアラブルデバイスはすべて、グルコースなどのバイオマーカーではなく、心拍数や呼吸数などのバイタルサインのみを測定するものである。そして、新生児のグルコースを継続的にモニタリングする場合は、通常は乳児の皮膚に針を突き刺す必要があり、大きな病院でしか行うことができなかった。そこで研究グループは、唾液を集めてバイオマーカーを分析できるおしゃぶりとして、乳児に優しいバイオセンサーを開発しようと考えたのだ。
研究グループは、概念実証として、細い管を含む乳首のおしゃぶりを作った。このおしゃぶりは、乳児がおしゃぶりを吸ったときに、少量の唾液が管を通って検出場所に移動するよう設計されている。そして、電極に付着した酵素が液体中のグルコースを弱い電気信号に変換し、スマートフォンアプリによってワイヤレスで検出できるのだ。電流の強さは、唾液サンプルのグルコース量と比例していた。
研究グループはまだこのデバイスを乳児でテストしていないが、1型糖尿病の成人患者を対象に予備分析を実施したところ、おしゃぶりによって食事の前後で患者の唾液中のグルコース濃度が変化することを検出できた。研究者たちは「この装置によって、グルコースだけでなく他の病気のバイオマーカーも監視するように設計できる」と言う。
荒川友加理
1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。