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傾聴ロボットで認知症ケア、国立長寿医療研究センターなど

2019年11月25日(月)

11月7日から9日まで京王プラザホテル(東京都新宿区)で開催された第38回日本認知症学会学術集会で11月9日、国立長寿医療研究センター副院長で同センター健康長寿支援ロボットセンター長の近藤和泉氏が登壇し、認知症に対するAI(人工知能)、ロボット技術を適用する研究開発について紹介した。

近藤氏はまず、健康寿命の延伸には介護予防が必要だとした上で、平成28年国民生活基礎調査から、要介護の原因となる疾病の比率を紹介し、75歳未満では脳血管障害が多いものの、要介護の8割以上をしめる75歳以上では、最も多いのが認知症、続いてフレイル、骨折・転倒、骨関節疾患だと紹介した。そこで「介護予防は、75歳以上では認知症、フレイルの対策に力を入れる必要がある」とした。

AIを使った認知症への適用は、「診断」「画像所見の解析」「薬物療法の効果の判定」「ロボットへの搭載」が期待されているという。診断については、認知症は操作的診断が基本となっているが、これらの診断で得られるテキストデータをAIが解析することができるのではないかとした。

続いてロボット開発と活用について紹介。認知症ケアにおけるロボット開発と活用は世界中で行われているが、日本の産業技術総合研究所が開発したアザラシ型ロボット「パロ」は特にヨーロッパではデファクトスタンダード化していると近藤氏は紹介した。

傾聴ロボットで認知症ケア、回想法を支援

近藤氏が進める認知症ケアにおけるロボット開発の方向性は、まずは回想法の支援だという。回想法は、写真などを見ながら過去の経験や思い出を語り合う心理療法で、認知症のリハビリテーションで行われるが、回想法を行うスタッフが患者の個人史を記憶する必要があり、スタッフに負荷がかかる。そこでロボットを活用することで、患者の個人史の記録などを支援できるという。また、認知症患者では暴言を吐くこともあるがロボットが対話の相手をする場合、こうした暴言も受け流して対話を続けることができる。現状のロボットの機能は完全ではないが、豊橋技術科学大学教授の岡田美智男氏が提唱する「弱いロボット」のように、ロボット自体は高機能ではなく直接役に立たなくても、周りの人たちを巻き込み人の力を引き出して協働していける可能性も指摘した。

近藤氏らは、トヨタ自動車と共同で傾聴ロボット「ポコビィ」の開発を進めている。傾聴ロボットの目的は、入院患者の心の安寧をもたらすことと、外来リハの延長として家庭で回想法を実施すること。現状は傾聴ロボットとしての開発だが、将来はパートナーロボットとして服薬、予定管理、排尿管理などの支援機能を担うことも想定しているという。

入院中の79歳から90歳の認知症患者7人を対象とした傾聴ロボットの実証実験を2018年1月に実施。ロボットとの対話を実施し、患者の反応などを評価した。その結果、表情、課題への参加度、自主性の3項目を評価するリアクションスケールはすべて満点、ロボットの外観に対して好印象、傾聴会話前後でロボットに対する抵抗感が減弱し、親しみが増す傾向があった。一方で、ロボットの音声認識機能が不安定のため、相づちのタイミングがずれたり、的外れな対話になることもあった。また、ロボットの会話内容が乏しく、長時間の会話にストレスを感じた可能性もある。

ほかに近藤氏は、ロボットがインストラクターとして指導する運動支援や、倒立振子ロボットを使った運動支援、夜間のトイレ支援のための対話ロボットの活用などの研究を紹介した上で、「介護予防の観点からも、ロボット・ICTを使った機器導入は必須」とまとめた。

長倉克枝

長倉克枝 m3.com編集部